連載コラム15 – 顧客管理の活用方法 « ミッドランド税理士法人(豊田)
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連載コラム15 – 顧客管理の活用方法

 

 

前回は、顧客の生涯価値と購買頻度の要素から、おすすめするツールについて触れ、典型的な失敗例についても記載しました。今回は、主にCRMツールの導入から定着までの流れをメインに、そのような失敗を回避する方法についても言及していきたいと思います。

導入から定着までの流れを検討する場合には、ルール・ツール・カルチャーという3つの論点で整理すると分かりやすいと思います。ルールとは方針や目標などで、例えば品質基準がどうであるとか、営業商談は原則2回まで、などを指します。ツールにはCRMソフトなどの直接的な顧客管理ツールと、その顧客管理ツールを使ってメール配信をするなど付帯的なツールがあります(今回は直接的なツールのみに触れます)。カルチャーとは、目的を効率よく達成するための仕組みを指し、今回は顧客管理による事業活動の効率・品質・価値の向上を目的としてお話しします。

第15回:顧客管理の活用方法

ルール

目的と目標の策定

多くの場合、顧客管理は目的を達成するための手段に該当します。経営的には戦略に位置づけられます。よって、そもそもの事業の目的として、理念・ビジョンを要に顧客・社員・組織にどのような価値を提供するのか、その目標として、それをいつまでにどの程度達成するのか、ということなどが決まっていなければ、顧客管理に期待する投資対効果の算定も困難ですし、本当の意味での戦略の導入は上手くいきません。しかし、小規模な企業や組織においては、目的や目標が設定できていないことがよくあります。そのような場合、”そのビジネスモデルにおいては一般的にこんな方法” という顧客管理のモデルが存在しますので、まずはそれに倣って始めるのも良いと思います。

 

SLAの策定

SLAとはService Level Agreement の略で、サービス品質基準の合意のことです。目的や目標が決まっていない場合でも、企業や組織は顧客との間で何らかの合意を締結しています。この場合の合意とは契約書を作ることではなく、その内容自体を指します。例えば、小売店で商品を購入する場合に、隠れた瑕疵(例えば消費期限切れや破損)があれば交換してもらえる、というのは日本では標準的な合意だと思います。この合意を組織内で定量的かつ定性的に落とし込んでおくことを推奨します。例えば、3日以上の利用に耐えないような不具合がお客様のご自宅で発見された場合、プリセンドバック(先に交換商品を送り、その空箱に破損商品とレシートを入れて返送してもらう など)で対応する、などです。この場合の「3日以内の利用に耐えれるか」や「対応方法はプリセンドバック」という点などがSLAに該当します。

 

 

現実には、目的も目標もなく、SLAもないというケースが散見されますが、本来これらは経営者の最も重要な仕事の1つだと思います。目的地も決まっておらず、旅程表もなく、予算計画も、やりたいことリストもない状態で良い旅行ができるでしょうか。実際のところ、中々厳しいのではないかと思います。これを機に、事業の目的や目標、SLAについて考えていただくのはいかがでしょうか。

 

ツール

導入

営業プロセスをもっている企業や組織にとっての顧客管理は、その後工程にある販売管理や工程管理を実施することで初めて収益に変えることができます。また、その発生した収益からは入金があって初めて収入になります。さらに一度収益や収入に繋がった顧客からは、リピート購入が期待できるため、改めて顧客管理で次の取引に繋げていく必要があります。

 

これらの流れを多元化させず、一元的かつ標準的に実施するために必要になるのがマスタ(基礎的な登録データ)の設計です。

 

顧客管理でどの項目を管理するべきなのかは、顧客管理の後工程となる案件管理や工程管理の方法によって決まりますので、どういう営業活動をするのか、どういう商品提供をするのか、から導き出すべきものだと思います。

 

例えば、製造業の場合、顧客管理の管理単位を「企業や組織」にするのか、その中の「部署」にするのか、または調達部門の「担当者(個人)」にするのか、などは営業のプロセスで決まってくると思います。樹脂や金属の汎用部品を大規模な顧客企業に納品している場合などで、例えば、駆動部門からは受注しているが、ボディー部門からは受注できていない、というような状況がよくあります。このような場合に管理単位を「企業や組織」にしてしまうと、部署毎の取引状況は見えなくなりますので、少なくとも「部署」での管理が必要でしょう。

 

定着

企業の販売活動や生産活動は流動的で常に変化をします。それにより、それらの後工程に情報を提供すべきデータも変化していきます。特に、現代は非常に速い変化をしています。コロナ禍では、2年分の変化が2ヶ月間で起きた、とも言われています。顧客管理システムも、「導入したら終わり」ではなく、延々と変化させていく必要があります。そのためには、変化が容易な仕様にしておくことをお勧めします。

 

例えば、kintone や Salesforce はカスタマイズが非常に容易です。Salesforce ユーザーは平均で年間90回程度のカスタマイズをしながら利用している、というデータもあります。この変化対応性を高い状態で維持するためには、JavaScript などを利用した個別カスタマイズをできるだけ行わず、標準機能の範囲内でツールをカスタマイズすると良いと思います。これにより、特定のプログラミング言語ができる社員だけにしかカスタマイズできない、という業務の属人化を排除できます。これは私見ですが、小規模企業の場合では、複雑なプロセスを構築し、複雑な仕様に設計しているケースほど、実は組織がうまく回っていないように思います。単純な業務プロセスを目指すと良いと思います。

 

カルチャー

経営 × 現場 × IT部門 で作る

前回のコラムで、以下の様に書きました。

 

経営者、現場、IT部門が三位一体で参画するという点にご留意ください。「現場に任せる」「IT部門や外注に下請けさせる」は失敗事例の典型です。

 

たとえ、十分に成熟した企業や組織であり、理念やビジョンが十分に共有され、SLAやそのためのプロセスが確立されていたとしても、将来の変化については読めないものです。常に「想定していなかったこと」が起き、それを解決し、顧客や社会に価値を提供し続けるためには、ルールやツールには常に軌道修正が入ります。経営 × 現場 × IT部門 が三位一体でチームを編成し、迅速に変化に対応していくことをお勧めします。

 

一元化・標準化・単純化を心がける

ツールに関しての記述でも少し触れましたが、一元化・標準化・単純化を心掛けるという考え方は、ルールにもツールにも、共通して言えることだと思います。例えば、エクセルを多用する企業によくあるのが、年賀状送付リスト、見込み客台帳、請求書管理台帳 というように分散したエクセルの台帳に、どれも企業名や担当者名などが記載されていて、新しい顧客が1社増えるたびに全てをメンテナンスする、という仕事の仕方です。

 

多元的な台帳の管理の多くは属人的であり、必ずしも妥当とは思えない謎の運用ルールが存在していたりします。また、なぜかその複雑化したプロセスを運用する担当に、能力の高い方がアサインされていたりします。これら多元的、属人的で複雑なプロセスの多くは、理念やビジョンが共有されておらず、SLA等のない組織に生じます。「年賀状を送る」「営業リストを作る」という手段自体を目的として作業をしているためです。起きるべくして起きている事象と言えるでしょう。

 

同様の経緯で、これらの組織には生産性が低く、品質が低いという傾向があります。給与計算業務では、小規模な企業は大規模な企業と比べて複雑な計算構造(必ずしも数理的ではない)をもっていることがあります。では、その複雑な計算によって社員は幸せになっているのでしょうか? 残念ながら、給与計算の複雑さと従業員満足度の相関性を示すデータは見たことがありません。むしろ、計算業務にかかる手間というコストの分だけ、社員一人当たりへの分配は低減しているとさえ言えます。

 

商談件数、リピート数、歩留まりなど、事業の経営指標(KPI)の多くは、効率と品質で構成されています。効率と品質を向上させるための基本的な考え方が、一元化・標準化・単純化です。

 

 

今回は、ルール・ツール・カルチャーという3つの観点から、顧客管理の導入定着について考えてみました。また、シリーズ全体としては、そもそも顧客管理とはどんなもので、どんな効果効能があり、どんな考え方で導入定着を図れば良いか、ということを考えてきました。顧客管理は事業活動の根本的な機能であり、現事業の収益性の改善の面においても、新しい時代の事業モデルへの変革においても、もっとも重要なキーになるものです。最近は非常に導入しやすい価格帯、機能性などを備えるようになりましたので、これを機に是非導入をご検討いただければと思います。

 

※ 顧客管理についてのご検討をされる場合は、是非当社にご相談ください。

 


今回で顧客管理に関してのコラムは終わりです。次回は新型コロナウイルス感染症の感染拡大状況に鑑みて、これからリモートワークを始める事業主の方や、すでに取り組んでいるけど、もう少し良い効率で実践したい、という方のためのテーマで書いていきたいと思います。

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